ホロライフサミット東京 基調講演|和時計と体内時計で考える長寿

by Tateki Matsuda

 

あなたの時間は、過ぎていますか?それとも、近づいてきていますか? 長寿の話は「何年生きるか」に偏りがちです。この記事は、同じ1年を「どれだけ深く生きるか」という視点で、体内時計・1日より長い体のリズム・人とのつながりという3つのリズムを一次研究で確かめ、今日からの実践に落とし込みます。

2025年10月11日、渋谷PARCO DGビル18階「Dragon Gate」で開かれたHOLOLIFE Summit Tokyo 2025から1年、基調講演「Japanese Chrono Trigger: Rethinking Time and Longevity(日本式クロノトリガー:時間と長寿の再定義)」を共有します。2014年から続くサミットシリーズ(2024年まではBiohacker Summit)として、初のアジア開催でした[1]。

あれから約1年。海外の参加者から「東京で2回目を」という声が届いています。それを受けて、講演動画に日本語字幕を付けました。

字幕が出ない場合は、再生画面の字幕(CC)ボタン、または歯車アイコンの「字幕」から「日本語」を選んでください。YouTubeで開く

目次

  1. 日本式クロノトリガーとは?和時計と不定時法が示す「近づいてくる時間」
  2. 時間の感じ方・体内時計・長い周期・つながり・今
  3. 日本の伝統と比較:時間を「管理」するか、「同期」するか
  4. 応用と統合:振り返りのない最適化は「加速」で終わる

1. 日本式クロノトリガーとは?和時計と不定時法が示す「近づいてくる時間」

日本式クロノトリガーとは、時間を「管理する資源」ではなく「同期する相手」として扱う考え方です。講演はその手がかりを、江戸時代の不定時法と和時計に求めました。

不定時法:季節で「一刻」の長さが変わる

明治初期まで、日本では夜明けから日暮れまでの昼と、日暮れから夜明けまでの夜を、それぞれ6等分して「一刻(いっとき)」とする不定時法が使われていました。夜明けと日暮れの時刻は季節で変わるため、一刻の長さも伸び縮みします。夏は昼の一刻が長く、冬は夜の一刻が長い。和時計は、明治6年(1873年)に定時法へ切り替わるまで、200年以上にわたって作られ、使われました[2]。

西洋から伝わった機械時計を不定時法に合わせるため、和時計は時計の進む速さや、文字盤の目盛りの間隔を季節ごとに変えました。二挺てんぷ式の和時計では、その調整は二十四節気に合わせた年24回です[3]。定時ごとに文字盤のほうが回転する作りの和時計も残っています[4]。時計のほうを、自然に合わせる。これが出発点でした。

江戸時代の和時計と不定時法をイメージした図
和時計のイメージ図(参考:セイコーミュージアム 銀座「和時計とは」)

この仕組みは現代にも受け継がれています。時計師の菊野昌宏氏は2011年、干支を記した12の駒が季節に合わせて自動で動く不定時法腕時計を製作しました。夏至には昼の駒の間隔が広がり、冬至には狭まります[5]。

動画:MasahiroKIKUNO「wadokei temporal hour watch」(YouTubeで開く)

時間を「追う」か、「迎える」か

講演では、時間との付き合い方を2つのモデルで対比しました。追うモデルでは、時間は減っていく資源です。よりよい明日のために、今を差し出します。「時は金なり」や「タイパ」の発想です。迎えるモデルでは、自分が錨(いかり)となり、時間のほうが近づいてきます。目指すのは支配ではなく、同期です。講演の核となった言葉は「未来を追う代償は、今」でした。

ただし、これは文化の優劣の話ではありません。英語にも「締め切りが近づく(The deadline is approaching)」という表現があり、人が時間を空間の比喩で理解していることは心理学の実験でも示されています[6]。【研究の種類:心理学実験】 2つのモデルは、時間との付き合い方を見直すための問いです。

2. 時間の感じ方・体内時計・長い周期・つながり・今

2-1. 年齢とともに1年が短く感じる:ジャネーの法則

この感覚は研究でも確認されていますが、年齢だけで説明できる部分は小さいのが現状です。フランスの哲学者ポール・ジャネは1877年、時間が過ぎる速さの感じ方は年齢に比例すると提案しました[7][8]。【研究の種類:哲学的な仮説】 講演では、3歳の息子を例に挙げました。3歳にとって1年は人生の約33%(1÷3)、30歳にとっては約3.3%(1÷30)です。

14〜94歳の499人を調べた研究では、年齢とともに時間が速く過ぎると感じる傾向が確認された一方、感じ方のばらつきのうち年齢で説明できたのは最大10%でした[9]。【研究の種類:ヒト観察研究】 実験室では、繰り返しの中に現れた「いつもと違う刺激」が、同じ長さでも長く感じられることが知られています[10]。【研究の種類:レビュー】 ただし、これは1秒未満の知覚についての知見で、秒・分・月といった長い時間の感覚は別の仕組みによると考えられています[10]。

2-2. 体内時計(概日リズム):朝のコルチゾール、夜のメラトニン

概日リズムは、約24時間周期の体内時計です。脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)にある中枢時計が、目から入る光を合図に毎日「時刻合わせ」をしています。夜の人工的な光は、この時刻合わせと睡眠を変えます[11]。【研究の種類:レビュー】 動物モデルと疫学データでは、リズムの慢性的な乱れが代謝疾患のリスクを高めることも示されています[12]。

朝は、起床後30〜45分でコルチゾールの分泌が大きく高まります[13]。 夜は、体に夜を知らせるホルモン、メラトニンの分泌が始まります。健康な成人170名の研究では、その開始時刻は18時13分から0時26分まで6時間以上の幅があり、起床時刻が早い人ほど早い傾向でした[14]。「良い睡眠の勝負は、朝起きた瞬間から始まっている」のとおり、朝の光で時刻を合わせ、夜の光を減らすことが基本です[11]。

2-3. 1日より長いリズム:月経周期と「性データの格差」

月経周期のような1日より長いリズム(インフラディアンリズム)は、体温や代謝の一部を変えます。一方で、運動成績への平均的な影響はごくわずかで、研究間のばらつきも大きいため、一律の指針は作れませんが、後述する78研究のメタアナリシス(2020年)の結論です。

指摘したのは、データの偏りでした。運動科学の学術誌1誌が、自誌の論文851本(2008〜2021年)を調べた研究では、参加者の64.1%が男性、35.9%が女性でした[15]。【研究の種類:文献調査】 スポーツ医学で性差の研究が不足しているという専門家の指摘もあります[16]。【研究の種類:専門家の意見(論説)】 周期の長さも人それぞれです。約12万5,000人の、排卵が確認された約61万周期のアプリデータでは、周期の平均は29.3日。前半(卵胞期)は10〜30日と幅が広く、後半(黄体期)は7〜17日でした(論文記載の95%範囲)[17]。

項目 報告されている内容 研究の種類
体温・睡眠中の代謝 黄体期に深部体温が0.27℃、睡眠中のエネルギー消費が6.9%上昇[18] 小規模ヒト研究(9名)
インスリンの効きやすさ 脳でのインスリンの働きが全身の効きやすさを高める作用は、卵胞期にだけ見られた[19]。月経前症候群(PMS)の女性では周期による差はなく、黄体期に食べ物への渇望が強まった(摂取量の差はなし)[20] 小規模介入研究(11名)、パイロット研究(7名)
ストレス反応 主観的なストレスとコルチゾール反応の関係が、卵胞期の群と黄体期の群で逆向きだった[21] ヒト実験研究(45名を2群で比較)
筋力・最大酸素摂取量 周期の影響は見られないとする研究が多い。暑い環境での長時間運動は、体温が高い黄体中期に不利になる可能性[22] レビュー
運動成績全体 卵胞期初期にごくわずかに下がる可能性(効果量−0.06)。エビデンスの質は「低」で、個別の対応を推奨[23] メタアナリシス(78研究)

周期に合わせてトレーニングを組むRCTは、まだ少数・小規模で、結果も分かれています。持久系トレーニングを積んだ女性49名の試験では、30秒の全力スプリントを1周期のうち卵胞期に集中させた群でのみ、運動能力が伸びました[24]。一方、女性24名が約12週間、左右の脚に異なる条件を割り当てて筋トレを行った試験では、周期に合わせても筋肥大と筋力に差はありませんでした[25]。【研究の種類:ランダム化比較試験】 120名規模の試験(IMPACT)は計画が公表されていますが、結果の論文は執筆時点で確認できていません[26]。講演でTatekiは、男性トレーナーの「6週間で腹筋を割るプログラム」を女性がそのまま続けることに疑問を投げかけました。データが示すのは一律のルールではなく、自分の周期を記録し、自分のデータで判断する姿勢です。

2-4. 社会的時間の曲線:年齢とともに増える「一人の時間」

年齢とともに一人で過ごす時間は増え、友人や家族と過ごす時間は減ります。そして、人とのつながりの強さは生存と関連します。講演で最も問いかけたかったのが、この点でした。

年齢別に、アメリカ人が誰と時間を過ごしているかを示すグラフ。年齢とともに一人で過ごす時間が増える社会的時間の曲線
社会的時間の曲線。出典:Our World in Data「Who Americans spend their time with, by age」(米国労働統計局 American Time Use Survey のデータを加工、CC BY 4.0)

米国の生活時間調査(2010〜2024年、2020年を除く)では、睡眠や身支度を除いた時間のうち、一人で過ごす時間は15歳で1日3.7時間、40歳で5.2時間、80〜84歳で8.0時間でした。80〜84歳は15歳の約2.2倍です(7.98÷3.68)。家族(パートナーと子どもは別集計)と過ごす時間は、15歳の4.3時間から40歳で0.8時間に減ります[27]。 対面の時間だけを数える横断調査なので、加齢と世代の違いが混ざる点に注意が必要です。講演時のTatekiは30代後半。子どもと過ごす時間が調査の年齢範囲で最も長く(39歳で1日4.3時間)、ほかの家族との時間は1日1時間を切る年代です[27]。サミットのための帰国は、3年ぶりでした。

148件の研究(30万8,849人)を統合したメタアナリシスでは、社会的なつながりが強い人は、生存の可能性が50%高いという関連が示されました。オッズ比(1より大きいほど関連が強い指標)は1.50、95%信頼区間は1.42〜1.59です[28]。

ここでの問いは、「120歳、200歳まで生きたいなら、先に問わないといけない。一人になる準備は、できていますか?」 共同体のない長寿は、長く孤独な待ち時間になりかねません。ミトコンドリアを整えるのと同じ真剣さで、人間関係も整える。それが松田干城の提案です。

2-5. 「今」に戻る:心のさまよいと瞑想・呼吸

スマートフォンで日常の思考と気分を記録した研究では、人は「今起きていないこと」を考える時間が「今起きていること」を考える時間とほぼ同じくらいあり、心がさまよっているときは概して幸福度が低いと報告されました[29]。 「未来を追う代償は、今」と重なる結果です。

瞑想中の脳活動を比べた研究では、熟練者は未経験者に比べて、考えごとをするときに働く脳のネットワーク(デフォルト・モード・ネットワーク)の中心部の活動が低い状態にありました[30]。より直接的な証拠は呼吸にあります。3種類の呼吸法とマインドフルネス瞑想を1日5分・1か月続けて比べたRCTでは、どの方法でも気分の改善と不安の軽減が見られました。なかでも、鼻から吸い、さらに吸い足して肺を満たしてから、口からゆっくり吐き切る呼吸法(サイクリック・サイ)は、瞑想に比べて気分の改善と呼吸数の低下がより大きくなりました[31][32]。

3. 日本の伝統と比較:時間を「管理」するか、「同期」するか

日本の伝統:不定時法という時刻制度がありました。体内時計が光で毎日時刻合わせをするという現代の時間生物学と、同じ方向を向いた発想です。現代版として、朝の光と、約15日ごと(二十四節気の区切り)の生活時刻の見直しを取り入れると、体内時計への合図と、季節の変化に気づく機会を同時に増やせます。

観点 時間を「管理」するモデル 時間と「同期」するモデル(日本の伝統) 現代科学との接点 今日の実践
時刻の決め方 定時法:1日を等分し、季節に関係なく一定 不定時法:昼と夜をそれぞれ6等分し、一刻が季節で伸び縮み 体内時計は光で毎日時刻合わせされる[11] 起床後に屋外の光を浴びる
季節との付き合い方 1年中同じスケジュール 二十四節気に合わせて和時計を年24回調整 夜の光は体内時計と睡眠を変える[11] 約15日ごとに起床時刻と夜の照明を見直す
休む時間 瞑想は生産性のない時間 座禅:座って呼吸と姿勢を整え、今に戻る 吐く息を長くする呼吸法で気分が改善[31] 1日5分、長く吐き切る呼吸
人との時間 個人の最適化 和(調和)と共同体 社会的つながりと生存の関連[28] 週1回、画面を置いて誰かと食卓を囲む
「今」の扱い 時は金なり:未来のために今を使う 一期一会:この瞬間は二度と来ない 心がさまようときほど幸福度が低い[29] 1日の終わりに、気づきを1行書く

 

4. 応用と統合:振り返りのない最適化は「加速」で終わる

3つのリズムは、別々に最適化するより、そろえることに意味があります。講演ではこれを「一貫性(coherence)は蓄積(accumulation)に勝る」と表現しました。

壇上では、西洋的な1日を再現しました。体重が増えた、気分が落ちている。だからHIIT、ブロッコリーと鶏むね肉、サウナ、水風呂、呼吸法、16時間断食。会場は笑いましたが、時間が限られている以上、筋は通っています。問題は、足し算を重ねるほど振り返る時間がなくなることです。振り返ることのない最適化は、自分を加速させても、進化させてはくれません。

HOLOLIFE共同創設者テーム・アリナらの著書『The Resilient Being』は、「あなたは単なる human being ではなく、human becoming(人間になり続ける存在)だ」という一文で結ばれています[33]。日々の繰り返しが自分をつくるなら、時間との付き合い方が、そのまま自分になります。統合の順番はシンプルです。

  1. 土台:1日のリズム(朝の光・食事の時間帯・就寝時刻)をそろえる。
  2. 重ねる:月経周期や季節など、1日より長いリズムを記録して重ねる。
  3. つなぐ:週に1回、画面を置いて人と過ごす時間を予定に入れる。
  4. 振り返る:週末に10分、記録と気づきを読み返す。

正直なトレードオフも添えます。記録は役立ちますが、数字を追うこと自体が目的になると、意識は今から離れます。講演の言葉では、今ここにいる感覚を伴わないデータは、人生を加速させるだけです。

長寿を「より多くの時間を追い求める」ことから「時間との同期」へと再定義をテーマに話しました。物理学、クロノバイオロジー、日本の時間文化(和時計/不定時法)、禅、そして格闘技におけるフロー体験を基に、身体の時計(概日/超概日リズム)、社会的リズム、瞬間瞬間の気づきを調和させることで健康寿命が拡大するのでは、と問いかけました。

西洋的な最適化(時は金なり)は合理的だが、存在感なくしては不完全です。日本の視点は自然との相互関係を加え、時間はただ過ぎ去るのではなく、近づいてくる概念。それは和時計の文字盤を作った昔の日本人が感じていた事です。私たちの課題は、それをよく受け止めることです。

科学は時間の構造を解読しますが、文化は時間の使い方を形作ります。単に長寿を追い求めず、自らの身体と周囲の世界の自然なリズムに同調しましょう。長く生きるだけでなく、深く生きましょう!

また、次のリズムでお会いしましょう。

参考文献

  1. HOLOLIFE Summit 公式サイト(開催履歴、HOLOLIFE Summit 2025 Tokyo プログラム、HOLOLIFE Summit 2026 Amsterdam). https://hololifesummit.com/ / https://hololifesummit.com/2025tokyo
  2. セイコーミュージアム 銀座. 和時計とは. https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation_15/
  3. セイコーミュージアム 銀座. 不定時法の説明. https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation_16/
  4. セイコーミュージアム 銀座. 玉落式時打平面置時計(収蔵品). https://museum.seiko.co.jp/collections/traditional_Japanese_clock/collect014/
  5. 菊野昌宏. 不定時法腕時計(和時計). https://www.masahirokikuno.jp/watches/和時計/
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